ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

怪談

【100w novel】パートタイムジョブ

シフトを増やしてほしいとリーダーに伝えたけれど、「無理だ」と一蹴された。ロッカールームの壁を殴ったら、その振動で『荷物の取り違えに注意』のポスターが剥がれた。帰宅して、だめだったよと妻に伝えると、彼女は「仕方ないわよ」と爛れた唇を歪めて優…

【100w novel】骨骨

「ちょっとだけ、お願い」彼女は言った。「ちょっとのあいだだけ、私の代わりに入ってて」陶器のような指がさす先には墓石と、穴と、掘りかえされた土があった。「後悔はさせないよ」彼女が言うから、私は言われた通りに穴に入った。土をかぶって彼女を待っ…

【100w novel】庭仕事

庭仕事をしていたら、種を植えたおぼえのない場所から、ちいさな芽が吹いていた。変だなと思ったけれど、ためしに水をやって育ててみることにした。芽はぐんぐん伸びて葉をつけて、やがて真っ赤な花を咲かせた。花は水をやるたびわたしにむかって、「愛して…

【100w novel】垢嘗

引っ越してから、風呂掃除は一度もしていなかった。忙しかったし、汚くたって全然平気だったから。ある晩、もう真夜中を過ぎてから、風呂場の方から音がした。ざりり、ざりり。そっと扉をあけて覗いたら、緑色の肌をした子どもがしゃがんでいるのが見えた。…

【100w novel】鵺

すっかり痩せさらばえてもなお、欲望に瞳を爛々とさせた父親は、病院のベッドの上でこう言った。「橋の上で何かの鳴く声が聞こえても、決してそれを見てはいけない。悪いことが起きるから」と。日暮れの橋を渡るとき、私は何かの鳴き声を聞く。今まで聞いた…

【100w novel】酒呑童子

「お坊様、どうぞどうぞ」 勧められ、つい一口酒を舐めてしまった。そこからはもう止まらなかった。喉を焼く酒の甘い香りに、かつての快感を思い出した。法衣は乱れ、盃は乾く暇もなく、ただただ愉快でたまらなかった。俺は落ちていた鬼の面を付け、一晩中踊…

【100w novel】猫又

やわらかな毛を撫でながら、「ずっと元気でいてね」と私は言った。猫は気持ちよさそうに目を閉じて、鼻先を手にすりつけた。私を見上げ、にゃあ、と鳴いた。猫は私の言葉通り、ずっと元気でいてくれた。十年、二十年経っても、ずっと元気でいてくれた。 六十…

【100w novel】河童

「また来るでしょ?」 私が町へ戻るとき、その子はかならずそう訊いた。夏のあいだだけ過ごす祖母の家。裏山に流れる川が私たちの遊び場だった。もちろん、と私は答えた。約束するよ。「嘘ついたら、水の中に引きずりこんでやるから」そう言った顔をみたとき…