ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

【100w novel】こぶ男

 踊れ、と言われて男は踊った。足はぎくしゃくとからまって、両腕は所在なく宙をおよいだ。音に乗ろうとするたびに、体が左へ傾いてしまう。左頬の瘤のせいだ。それでも必死で踊った。鬼たちは焚火をかこみながら、濁った酒を飲んでいた。はじめのうちは歯を剥き笑っていたが、やがて顔を見合わせ息を吐き、もういい、と音をとめた。こんな下手な踊りは見ていられない。瘤をとってやる価値もない。お前には醜い瘤がお似合いだ。そう言って、鬼は右の頬にも瘤をつけた。
 帰路、ふいに気がついた。体が傾かない。まっすぐ歩くことが何とたやすい。男は踊った。山道にはもう朝陽が差していた。光のなか、両の瘤をぶるんぶるんと揺らしながら、男は誰よりもうまく踊りつづけた。