ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

【100w novel】猫又

 やわらかな毛を撫でながら、「ずっと元気でいてね」と私は言った。猫は気持ちよさそうに目を閉じて、鼻先を手にすりつけた。私を見上げ、にゃあ、と鳴いた。猫は私の言葉通り、ずっと元気でいてくれた。十年、二十年経っても、ずっと元気でいてくれた。
 六十年が経った。私はすっかり年老いて、ほとんど寝ているばかりになった。布団から出た私の手に、猫が鼻先をすりつけた。私にはもう、猫を撫でてやる力は残っていなかった。猫の尻尾はいつのまにか二股に割けていた。私を見下ろし、にゃあ、と鳴いた。