2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧
山本十鱒(やまもととおます)の好物は穴子プリンで、それは彼の義理の祖母にあたるミツエさんがよく作ってくれるおやつであった。ミツエさんの家へ行く前日に、彼は濡れたままの長い髪を枕の上に広げながら妻に言う。「明日は穴子プリンがあるかな?」妻は眠…
せっかくなのでこちらにも現在まで公開されている翻訳作品をまとめておくことにしました。いずれの作品も翻訳はToshiya Kameiさんです。なお、すべての翻訳作品のまとめはnoteにて随時更新しています。(ほんとうはこれもどこかに引っ越したいのですがどうす…
イギリスのGohst Orchid Pressより『Home: An anthology of dark microfiction (Hundred Word Horror) 』が刊行されています。”Home”をテーマに書かれた100wordホラー小説の選集で、わたしはToshiya Kameiさんに翻訳していただいた、『呼び鈴(英訳タイトル"…
5時起床。まだうす暗い。祝日の早朝は静か。洗濯などをすませて仕事のメールをひととおりチェックしてスケジュールを確認。来週大きめの仕事が一件くる予定なのでそれの予習などをしていたらあっという間に午前中が終わる。お昼にチキンラーメンを食べなが…
シフトを増やしてほしいとリーダーに伝えたけれど、「無理だ」と一蹴された。ロッカールームの壁を殴ったら、その振動で『荷物の取り違えに注意』のポスターが剥がれた。帰宅して、だめだったよと妻に伝えると、彼女は「仕方ないわよ」と爛れた唇を歪めて優…
「ちょっとだけ、お願い」彼女は言った。「ちょっとのあいだだけ、私の代わりに入ってて」陶器のような指がさす先には墓石と、穴と、掘りかえされた土があった。「後悔はさせないよ」彼女が言うから、私は言われた通りに穴に入った。土をかぶって彼女を待っ…
庭仕事をしていたら、種を植えたおぼえのない場所から、ちいさな芽が吹いていた。変だなと思ったけれど、ためしに水をやって育ててみることにした。芽はぐんぐん伸びて葉をつけて、やがて真っ赤な花を咲かせた。花は水をやるたびわたしにむかって、「愛して…
星を飼うのが流行りだしたのは去年の終わりごろからだった。 もともとそんなに興味があったわけではないけれど、飼っている子からかわいいよという話はよく聞いていた。写真を見せてもらうとたしかに星はかわいくて、家に帰ってこんな星が待っていてくれたら…
引っ越してから、風呂掃除は一度もしていなかった。忙しかったし、汚くたって全然平気だったから。ある晩、もう真夜中を過ぎてから、風呂場の方から音がした。ざりり、ざりり。そっと扉をあけて覗いたら、緑色の肌をした子どもがしゃがんでいるのが見えた。…
夕暮れ時に妙な歌が聞こえてきた。「たん、たん、ころりん、たんころりん」 外へ出てみると、変わった着物の老人が歌いながら通りを歩いていた。「たん、たん、ころりん、たんころりん」 歌いながら、老人は袖から熟れた柿の実を取り出し、家々の庭に放り投…
すっかり痩せさらばえてもなお、欲望に瞳を爛々とさせた父親は、病院のベッドの上でこう言った。「橋の上で何かの鳴く声が聞こえても、決してそれを見てはいけない。悪いことが起きるから」と。日暮れの橋を渡るとき、私は何かの鳴き声を聞く。今まで聞いた…
「お坊様、どうぞどうぞ」 勧められ、つい一口酒を舐めてしまった。そこからはもう止まらなかった。喉を焼く酒の甘い香りに、かつての快感を思い出した。法衣は乱れ、盃は乾く暇もなく、ただただ愉快でたまらなかった。俺は落ちていた鬼の面を付け、一晩中踊…
やわらかな毛を撫でながら、「ずっと元気でいてね」と私は言った。猫は気持ちよさそうに目を閉じて、鼻先を手にすりつけた。私を見上げ、にゃあ、と鳴いた。猫は私の言葉通り、ずっと元気でいてくれた。十年、二十年経っても、ずっと元気でいてくれた。 六十…
「また来るでしょ?」 私が町へ戻るとき、その子はかならずそう訊いた。夏のあいだだけ過ごす祖母の家。裏山に流れる川が私たちの遊び場だった。もちろん、と私は答えた。約束するよ。「嘘ついたら、水の中に引きずりこんでやるから」そう言った顔をみたとき…
日記や雑記や創作(掌編や超掌編)をアップするための場としてつくりました。 【100w novel】英訳の100word novel用に書いた超掌編(220~240字くらい)です。【小説】400~2000字くらいの掌編小説をあげる予定です。【日記】日記です。(たぶん)【雑記】日…