ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

【100w novel】鵺

 すっかり痩せさらばえてもなお、欲望に瞳を爛々とさせた父親は、病院のベッドの上でこう言った。「橋の上で何かの鳴く声が聞こえても、決してそれを見てはいけない。悪いことが起きるから」と。日暮れの橋を渡るとき、私は何かの鳴き声を聞く。今まで聞いたどんな声にも似ていない、気味の悪い声だった。私は声のする方を振り向いた。声の主は、見たこともない奇怪な姿の生き物だった。猿の顔に虎の手足、蛇の尾を持っていた。私と目が合うとそれは、煙のようにゆらりと揺れて消えてしまった。
 翌朝、父親が死んだと病院から連絡があった。しかしそれは私にとって、悪い報せではなかったのだ。