ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

【100w novel】垢嘗

 引っ越してから、風呂掃除は一度もしていなかった。忙しかったし、汚くたって全然平気だったから。ある晩、もう真夜中を過ぎてから、風呂場の方から音がした。ざりり、ざりり。そっと扉をあけて覗いたら、緑色の肌をした子どもがしゃがんでいるのが見えた。ざりり、ざりり。よく見れば、そいつは風呂場の床にたまった垢を、長い舌で舐めていた。「おい」と声をかけたら、そいつはびくっとふり向いて、あわてて窓から逃げ出した。風呂場はぴかぴかになっていた。俺はなんだか不気味になって、それからは風呂の掃除をかかさない。だけど今も時々真夜中に、あの音が聞こえてくることがある。ざりり、ざりり。小姑かよ、と俺はそのたび少し笑うのだ。