ごじゃはげ

日記と雑記とみじかい創作

【お知らせ】文学フリマ東京『破滅派17号 小説の速度。』『閑窓Vol.5 道辻を灯す』

5/29に開催された文学フリマ東京に参加してきました。

 初参加。
人と本の多さに圧倒されつつ、これまでSNSでしかお話したことのなかった方や画面で見ていただけの方にご挨拶ができてよかったです。

文フリで販売された本がオンラインでも購入できるようになったのでお知らせをば。

『破滅派17号 小説の速度。』

破滅派の最新号、今回は〈小説の速度〉をテーマに同人たちが創作・評論・対談したものが掲載されています。
私は「しゃべるのがおそい」という短編を寄稿しました。おそいタイトルのはやい小説を目指して書いたもので、はやい小説のダメ(と一般的に言われているイメージのある)オチをあれこれ詰めこんでいます。
ちなみに文フリ会場では来月発売される単行本、斧田小『ギークに銃はいらない』佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』がそれぞれ先行販売されました。
私も一足先に入手したので、読むのが楽しみです。

『閑窓Vol.5 道辻を灯す』

架空の商店街を舞台にしたアンソロジー、私はクリーニング屋の女店主が主人公の短編「ふくらはぎ」を寄せました。
ご依頼いただいたのがうれしかったので、かなり気合を入れて書いた力作です。気に入っている作品なので、たくさんの人に読んでほしいな。
装丁もコンセプトも素敵な一冊。お誘いくださった閑窓社の瀬戸千歳さん、どうもありがとうございました。

文体の舵をとる①

昨年ちょっと話題になった本、『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室  』。

filmart.co.jp

いわゆる小説の指南書で、章ごとに〈練習問題〉がついています。
去年買っていたんだけどちょっと読んで放置してしまっていて、あとこのブログも最近放置してしまっている……ということもあり、今さらながら〈練習問題〉をやってみようと思ったのでした。とりあえず今日は練習問題①を。太字はタイトルだけど、今後毎回練習問題の作品にタイトルをつけるかは決めていません。

 

練習問題① 文はうきうきと
問1 一段落~一ページで、声に出して読むための語り(ナラティヴ)の文を書いてみよう。

 ようこそ、アンクル・ピカンタ

 むこうから歩いてくるのは誰かって? あれはさ、僕の伯父さんで、アンクル・ピカンタって呼ばれてる。アンクル・ピカンタはいつもご機嫌。鼻歌まじりにやってくる。やあこんにちは、やあどうも、今日はすてきなお天気ですね。そうして会う人、会う人みんなに挨拶しながらのんびり歩いて、僕のうちまでやってくる。僕はアンクル・ピカンタが大好きだから、彼がベルを鳴らすやうさぎみたいに駆けてって、玄関のドアを開けて言う。ようこそ! アンクル・ピカンタはまるくてつやつやの顔で僕を見おろし、大きくなったねえと言いながら、帽子をとってほほほと笑う。僕もつられてほほほと笑う。
 パパもママもアンクル・ピカンタのことが大好き。到着早々、お待ちかねのティータイム。ママが焼いたブルーベリーパイはアンクル・ピカンタの大好物。切り分けられたパイからは、みずみずしい臓物みたいにブルーベリーの実がわんさとあふれだしている。口のまわりをブルーベリーソースで汚しながら、アンクル・ピカンタは手掴みでそれをがつがつ食らう。ママはにこにこしながら、アンクル・ピカンタの前におかれた薔薇模様のティーカップに紅茶のおかわりをたっぷりそそぐ。パパはアンクル・ピカンタと共通の趣味であるガーデニングについてあれこれしゃべる。今年は薔薇が豊作で。パパはティーカップを見ながら思いだしたように言う。白いの赤いの黄色いの、いろんなやつが咲きましたよ。アンクル・ピカンタはほほほと笑う。それはすばらしいですね。パパは得意げに、だけど謙遜しながらこたえる。いやいやアンクル・ピカンタの庭には負けますよ、うちの庭なんて、ねえ。ねえ、と言いながらママを見る。ママは、ええ、ええ、そうですともとうなずく。
 僕はアンクル・ピカンタの真似をして、手をべたべたにしてブルーベリーパイを食べながら、うちにある庭について考える。うちにあったかもしれない、薔薇がたくさん咲いている美しい庭について考える。窓から見える草がぼうぼうの、崩れた塀と誰かが放り棄てて行ったテレビと破れた傘が放置してあるあの庭じゃない、庭について考える。でもそれにはすぐ飽きて、アンクル・ピカンタにこの後見せる絵のことを考えはじめる。アンクル・ピカンタはきっとブルーベリーパイで甘ったるくなった唾をたくさん飛ばしながら、僕の絵を褒めてくれるだろう。やあ才能だ、才能があるね。なんて言いながら。目の前で豚みたいにお皿に顔を埋めながら、アンクル・ピカンタは三切目のパイをむさぼっている。アンクル・ピカンタがげっぷまじりにほほほと笑うたび、ママもパパも僕もうれしくなってほほほと笑う。

【お知らせ】たまゆらのこえ: 超短編小説アンソロジーvol.2

4月2日配信開始の『たまゆらのこえ: 超短編小説アンソロジーvol.2』に「こぶ男」「魔術」「ラフレシア」の3作を寄稿しました。

www.amazon.co.jp

Amazonではもう予約開始になっているもよう。
寄稿作はいずれもブログで公開済みの200~300字の超短編小説です。
前作(『てのひらのうた: 超短編小説アンソロジー』)に引き続き、イラストレーターの佳嶋さんによる装画がとても素敵です。

よろしくお願いします。

地球の歩き方カレンダー

が当たった。
地球の歩き方』と『ムー』のコラボ本(『異世界の歩き方』)を買ったとき、読者アンケートに答えると抽選でプレゼントがあるとのことだったので応募していたのだった。すっかり忘れていた。こういうプレゼントが当たった経験があまりないのでうれしい。デスクの横に貼った。

f:id:ohki235:20220308113946j:plain

地球の歩き方』といえば、大学時代アルバイトをしていた喫茶店の、常連客の男性が『地球の歩き方』をつくっている人だった。私はその店で四年間働いて、卒業と同時に辞めることになったのだけれど、そのときそのひとが卒業祝いとして『地球の歩き方』を一冊プレゼントしてくれた。背が大きくて物静かで、いつもカウンターの同じ席に座っているひとだった。「どこでも好きな国のものを」と言ってくれて、私は一度だけ行ったことのある、また行きたい、また行くだろうと思っている国をリクエストした。
あれから十年以上がたったけど、結局その国にはまだ再訪していない。そのひとにもそれきりお会いしていない。当時すでに六十近かったと思うのできっともうお仕事は引退はされているだろうけど、お元気でいてくれればいいなと思う。

土鍋の目止め

おそらく一年のうちでいちばん忙しいと思われる時期が過ぎつつあり、過ぎつつあるだけで完了はしていないんだけど最も大きな山は越えた感じがあるのでほっとしている。毎度のことながら、今の仕事をはじめてから忙しい時期は猛烈に忙しく、暇な時期は閑古鳥も喉を痛めるくらい暇になる。みんなそういうものなのか、私のスケジューリングが悪いのか、あるいはそのどちらもなのかは不明だけどおそらくどちらもなんだと思う。ともかくすこし落ち着きつつあるからさぼっていたランニングをしたり、ちょっと遠いけど安い食料品店まで買い出しに行ったり、図書館に予約していた本を取りに行ったりすることができて嬉しい。

先日、新しく買った土鍋の目止めをした。一人用の土鍋は父からもらったものをすでにひとつ持っていたんだけど、一人で湯豆腐をするにはちょうどいいけど鍋焼きうどんをするにはすこし大きいという微妙なサイズだったため、ひとまわり小さいサイズを新しく購入した。目止めは本当なら米でやるのがいいのだろうとは思いつつ、お粥を食べるタイミングがなかったので片栗粉でやった。こういう生活のひと手間のような作業をしているときがいちばん心が安らぐ。毎日の掃除洗濯炊事とはべつに、わざわざそれをやる、のようなこと。日々生活に必要なことをやっているときよりも、不思議とそういうときのほうが自分がより「生活」としっかり接続している気持ちになる。ありふれた不安症の類なんだろうけど、むかしからふとした瞬間に気が狂うんじゃないかとこわくて仕方なくなることがままあって、そういう不安を逃すための方法として、こういう作業が好きだと思う。たとえば仕事関連の事務的な作業やランニングもそうだし、もっとささやかなことなら爪に色を塗ることや、花の名前を思い出すことなんかもその方法にふくまれるんだけど、一番有効なのは梅酒の仕込みをするだとか、ジャムを煮るだとか、フキンの煮沸をするだとか、風呂場のカビを落とすだとかのような、「生活」に接続した作業をわざわざ行うことだとだいぶ大きくなってから発見した。そういうことをしていると、もちろんその場かぎり気がまぎれるというのもあるけれど、ちゃんとできている、と思えて安心する。
無事に目止めを終えた土鍋でその日は味噌煮込みうどんを作った。実家からもらった讃岐うどんの麺を使ったやや邪道な味噌煮込みうどんだったけどおいしかったです。

f:id:ohki235:20220302105006j:plain

f:id:ohki235:20220302105015j:plain


昨日は亀戸天神で梅を見てきた。まだ満開ではなかったけど、ふくらんだ蕾とほころんだ花との両方を見ることができたのでむしろいい時期に行けた気がする。同日なのにちょっと方角を変えたらそれぞれ違った空模様で撮れてしまった。曇天でも晴天でも梅の花はきれいだね。写真が下手なのはご愛嬌。

【100w novel】こぶ男

 踊れ、と言われて男は踊った。足はぎくしゃくとからまって、両腕は所在なく宙をおよいだ。音に乗ろうとするたびに、体が左へ傾いてしまう。左頬の瘤のせいだ。それでも必死で踊った。鬼たちは焚火をかこみながら、濁った酒を飲んでいた。はじめのうちは歯を剥き笑っていたが、やがて顔を見合わせ息を吐き、もういい、と音をとめた。こんな下手な踊りは見ていられない。瘤をとってやる価値もない。お前には醜い瘤がお似合いだ。そう言って、鬼は右の頬にも瘤をつけた。
 帰路、ふいに気がついた。体が傾かない。まっすぐ歩くことが何とたやすい。男は踊った。山道にはもう朝陽が差していた。光のなか、両の瘤をぶるんぶるんと揺らしながら、男は誰よりもうまく踊りつづけた。

【100w novel】ラフレシア

 ヨウちゃんは世界一くさい花の話をした。世界一くさくて、世界一大きい花が南の島に咲いている。南の島ってどこと訊ねたら、ボルネオ、と言った。ボルネオってどこと訊ねたら、南の島、と言った。みんなが帰ってしまった公園で、私たちは砂場にふたりきりだった。その花はとてもみにくいの。ヨウちゃんは言った。そして話した。その花がどんなにみにくくて、どのくらい大きくて、どれほどひどいにおいがするのか。帰らなきゃ、と私は言った。ごめんねと言って立ちあがり、また明日ねと手をふった。
 次の日、砂場に大きな花が咲いていた。花からは、何かが腐ったようないやなにおいがした。でもみにくくはなかった。ヨウちゃんはいつまで待っても来なかった。